デス・オーバチュア
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「流石はお兄……ザヴェーラ様の弟なだけはあるね、ノワールちゃん〜」 闇魔女マリアルィーゼは、ボロボロになった黒マントを脱ぎ捨てた。 「ふん……」 ノワールは不機嫌そうな表情で、大地へと降り立つ。 「ノワール、解っているわね、森への被害も考えて戦いなさい」 フローライトの勝手で無茶な命令が背中に聞こえてきた。 「ちっ……解っている……」 ノワールにとっては言われるまでもないことである。 フローライトの命令だからではなく、彼自身、森は壊したくない、荒らすわけにはいかない理由があった。 「じゃあ、少しだけ本気で遊んであげるよ、ノワールちゃん〜♪」 「何?」 「魔王石(サタンストーン)よ、その真の力を今こそ示せ……」 マリアは左手薬指の指輪の赤い宝石にそっと接吻する。 『DARK UP』 機械的な声が聞こえたかと思うと、指輪から発生した赤い閃光がマリアの姿を完全に呑み込んだ。 「くっ! またか……」 赤き閃光の爆発がハーティアの森を蹂躙する。 「闇の鼓動の赴くままに、咲き乱れる悪の華! ダークチェイサー(闇狩猟者)まりあ! お呼びでなくても大推参!」 赤き閃光が消え去ると、金髪のツインテールに、漆黒のノースリーブシャツとミニスカートの少女が立っていた。 「……本当にマリアルィーゼか? 今度は髪の色まで変わったのか……」 「マリアがマリア以外の何に見えるの、ノワールちゃん? マリアのトレードマークであるこの立派なリボンが見えないのかな?」 私服の時は頭の上に、魔女姿の時は三角帽子に結ばれていた、赤い大きなリボンが、今は彼女の胸元に可愛らしく蝶結びされている。 「ちなみに、今はダークチェイサーまりあって呼んでね〜♪」 黒のノースリーブシャツとミニスカート、赤い手袋とブーツ、髪を二つに分け結ぶ赤い二つのリボン、そして、胸元の大きな赤いリボンと……マリアは黒(闇の色)と赤(血の色)で彩られていた。 「ダークチェイサー……チェイサー?…… 追撃者? 狩猟家? 彫金師?」 「別にどの意味でもいいよ、どれでも間違いじゃないから……」 マリアが左手を天にかざすと、薬指の指輪が一瞬赤く発光し、彼女の手の中に立派な『魔法の杖』を出現させる。 魔法の杖は、彼女の身長よりも長く、暗く深く輝く漆黒の金属でできていた。 先端は『輪』になっており、輪の中心に紫色の水晶球が浮いている。 そう、輪にピッタリと填め込まれているのではなく、不思議なことに輪の中に浮遊する形で完全に固定されていた。 マリアが杖をブンブンと振り回しても、水晶玉は宙に置き去りにされたり、杖から飛び出すこともない、完全に杖の一部と化している。 「じゃあ、殺し合いを再開しようか、ノワールちゃん」 マリアは左手一本で持った大きな魔法の杖の先端を、ノワールに向けて突き出すようにかざした。 「マジカル〜」 紫の水晶球が爆発的に黒く輝きだす。 「バスター〜♪♪♪」 そして、魔法の杖から、竹箒の時の二倍以上の量と出力で黒光が解き放たれた。 ノワールはギリギリで黒光から、空へと逃れていた。 「くっ……」 そのまま空中に浮遊停止する。 「威力だけなら、リーアベルトにも優るか……?」 遙か眼下の地上を見下ろすと、黒い輝きが見えた。 「なっ!?」 地上から撃ちだされた莫大な黒光が、ノワールの眼前を通過して、空の彼方へと消えて去っていく。 気づくのが……僅かに空中を後退するのが少しでも遅れていたら、直撃だった。 「連射だと?」 予想外の追撃。 まさか、あれ程の出力の破壊光を連続で放てるとは思いもしなかった。 「マジカル〜」 「くっ!?」 声はノワールのさらなる上空から聞こえてくる。 見上げると、黒いスパッツと風でめくれている黒のミニスカートが見えた。 いつの間にか、ノワールの上空にマリアが移動していたのである。 「ストライク!!!」 マリアは、黒光の輝きの激しさで先端が見えなくなっている杖で、ノワールを強打した。 凄まじい爆音と共に黒の閃光がノワールの姿を呑み込む。 「追撃のマジカルショット!」 杖から200センチ程の黒光の弾丸が発射され、ノワールを呑み込んだ黒色の閃光と爆発を、さらなる黒光の大爆発が呑み尽くした。 「まあ、これは軽い挨拶代わりだよ」 マリアは爆発の風圧に流されるようにして、空を滑空し後退する。 「……なるほど、魔力を込めた杖での殴打と、魔力で作った弾丸か……ありきたりだな……」 黒光の閃光と爆発が晴れると、何事もなかったように平然としているノワールが姿を見せた。 「やっぱりこれくらいじゃあ簡単に『受け』られちゃうよね……じゃあ……」 マリアは杖を右手に持ちかえる。 直後、彼女の左手には赤い水晶球が出現していた。 「これならどうかな?」 マリアが赤い水晶球を輪の中に投げ入れると、どれだけ乱暴に杖を振り回しても外れなかった紫の水晶球があっさりと外れ、代わりに赤い水晶球が収まる。 「……破滅の炎よ!」 マリアが杖をクルクルと回転させた後、ノワールの方に向けて振り下ろすと、巨大な火球が撃ちだされた。 ノワールよりも巨大な火球が、彼を一呑みにしようと迫る。 「ちっ!」 ノワールは両手を交差するようにして振った。 すると、ノワールの直前で火球が大爆発を起こす。 「少しぐらい威力と大きさを変えようとたい……しっ!?」 爆炎の中から、新たに同じサイズの火球が五個姿を現し、ノワールへと襲いかかった。 「ちぃっ!」 即座に、これだけの火球を見えない剣で普通に切り落としては、切った際の爆発だけでもかなりのダメージを受けると判断したノワールは、幻剣の豪雨を降らせ、次々と火球を距離があるうちに爆破していく。 それでも、爆破の度に、凄まじい爆風がノワールの体を弄ぶように様々な方向へと押し流していた。 「Fire! Fire!」 マリアはデタラメに火球を撃ちだし続ける。 火球達はそれなりの速度で、ノワールを追尾するようにして襲いかかっていった。 火球は全て幻剣の豪雨によってノワールに届く前に迎撃されてしまうが、爆風の衝撃がノワールをあちらこちらへ吹き飛ばしていく。 「Burner!」 一際激しく赤い水晶球が発光したかと思うと、凄まじい勢いで爆炎が吐き出され、ノワールを呑み込もうとした。 ノワールは幻剣では駄目だと瞬時に判断し、見えない剣の剣風で炎を切り裂く。 「フレイム〜」 「つっ!」 「チェイサー〜♪♪♪」 ノワールの撃ちだした幻剣の豪雨を、魔法の杖から伸びた炎の帯が薙ぎ払った。 巨大な炎の帯は、鞭のように蠢き、ノワールを叩き落とそうとする。 ノワールは空を駈け、辛うじて炎の帯をかわした。 「Call Me Queen!」 巨大な炎の鞭が縦横無尽に空を荒れ狂う。 「くっ! つっ!」 ノワールは紙一重で炎の帯の猛攻を逃れ続けていた。 「ノワール、いつまで遊んでいるの? さっさと片づけなさい」 地上から、フローライトの勝手で無茶な命令が聞こえてくる。 「くっ……うるさいっ!」 フローライトへの怒りも込めて、幻剣の豪雨が今までになく大量に高出力でマリアへと降り注いだ。 「ふぇっ!?」 マリアは瞬時に、輪の中の赤い水晶球を紫の水晶球に入れ替える。 「マジカルバリア〜!」 紫の水晶球が黒く輝くと、薄黒い半透明な巨大な『障壁』がマリアの前面に出現した。 障壁は、幻剣の豪雨を全て受けきる。 「エナジーバリアを前面だけに集中展開!? 僕の幻剣を全て受けきっただと……」 「レット、ブルー、グリーン、イエロー、パープル、ホワイト……全部の力を見せてあげたかったけど……やっぱり、スキップして一気に終わりにさせてもらうよ〜」 マリアの左手に黒い水晶球が出現した。 「紫は魔の水晶……全ての力の根元にして基本……要は魔力の増幅器(ブースター)みたいなものなの。本当は紫色の光(力)を放つはずなんだけど……アリアの魔力の属性が物凄く闇……黒いから黒光になるんだ……」 マリアは黒い水晶球を放り、輪の中の紫の水晶球と入れ替える。 「そして、これが闇の水晶球……マリアと同じ属性の水晶……闇の水晶球との斉唱(ユニゾン)による力は……魔の水晶球による増幅(ブースト)なんかとは次元が違う!」 黒い水晶球が爆発的な勢いで黒い煌めきを放ちだした。 杖が地獄からの呼び声のような不気味な唸り声をあげだす。 「虚仮威しをっ!」 ノワールは先程以上の幻剣の豪雨を放った。 「ダークチェイサー!!!」 マリアの叫びと共に解き放たれた闇の閃光が、一瞬にして全ての幻剣を掻き消す。 「マジカル〜〜」 マリアは闇の煌めきを身に纏いながら、杖をバトンのようにクルクルと大回転させていた。 そして、自らも優雅に華麗に舞い踊る。 彼女の全方位を取り囲むように、巨大な黒い球体が出現した。 彼女の舞いの高まりに同調するように、球体が膨張していき、黒い放電現象を起こす。 「ブラスター!!!」 十の球体から一斉に、マジカルバスタークラスの黒光が解き放たれた。 十の黒光は集束されて、一つの最強最大の黒光と化すと、ノワールを跡形もなく呑み尽くした。 そして、黒光は空を穿つようにして彼方へと消え去っていく。 「殺った? 殺ったよ……」 それを見届けると、マリアは全ての力を使い果たしたかのように、地上へと落下していった。 魔法の杖が消失したかと思うと、次いで、金髪ツインテールが黒髪ロングストレートに戻り、ノースリーブシャツとスカートがショートドレスに……といった具合に『変身』が解けていく。 マリアは完全に元の魔女姿に戻ると、足からの着地どころか受け身も取れずに地上へ落下した。 「ふぇぇぇ〜……痛たあぁ〜……失敗したよ……地上に降りてから撃てば良かった〜……」 マリアは大地に仰向け大の字にめり込んだまま、失敗を愚痴る。 ダークチェイサーは、マリアの魔力……闇の力を何十倍から何百倍にも高める闇武装(ダークアーマー)にして栄養強化剤(ドーピング)だ。 そして、マジカルバスターは、その強化されたマリアの魔力(闇の力)を一気に全て解き放つ最強最大最終魔法である。 本当に一滴残らず魔力を搾り取る魔法であり、発射後は浮遊するための魔力すら残らず、変身も強制的に解かれ、通常(魔女)形態に戻されてしまうのだった。 「なかなか見事な技だったわね」 フローライトが拍手をしながら、大地に大の字でめり込んでいるマリアの元に近づいてくる。 「見た目も華麗だし、威力も申し分なかったわ」 フローライトは自分の従僕(バレット)が跡形もなく消し飛ばされたというのに、一欠片の動揺も見せず澄まし顔だった。 「……?」 「闇の神剣でもあそこまで威力のある闇は簡単には出せないでしょうね」 「……何でそんなに冷静なの? お姉ちゃんのノワールちゃんが殺されちゃったのに……」 「殺された?」 フローライトが艶然と一笑する。 「私は従僕をそこまで間抜けに躾てはいないわ」 「えっ?」 「……何が躾だ……僕は君に躾られた覚えなんてない!」 何もない空間から突然現れたノワールが、ふわりと軽やかに大地に着地した。 「嘘っ!? どうして!? マジカルブラスターに耐えられるわけが……」 マリアは、信じられないもの、存在してはいけないもの……まるでお化けでも見るような目をノワールに向けている。 「そうだね、直撃したら絶対に耐えられなかっただろうね……でも、当たらなければどうということはない」 「うっ!? 避けたの……?」 「ああ、十の黒光が集束した瞬間に軌道が予測できたからね。かわすのはそれ程難しくはなかった」 ノワールは特に誇るわけでもなく、本当に何でもない容易いことのように言った。 「くっ……」 悔しい、悔しすぎる。 全ての力を込めた最強最大の一撃……それをひらりとかわされて、はい無効というのはあんまりだ。 だいたい、普通『ノリ』的に、こういうのは受け止めるか、同じように最大の技で撃ち返すのが礼儀じゃないのか? それをただの回避!? あっさりと簡単に避けただなんて反則だ。 マリアは心の中で、クロスやリンネあたりなら同意してくれそうな主張をする。 「さて……可哀想だけどトドメをさせてもらうよ。森を荒らした罪……その命を持って償うがいい……」 「どちらかと言うと、貴方の方が荒らしたように思えるのは……気のせいかしら?」 「…………」 ノワールは、フローライトの指摘を黙殺した。 「……では、これで終わりだ、消……」 ノワールが幻剣を生み出そうとした瞬間、空で何かが爆発したような音が響く。 「……何だ?」」 爆音は断続的に何度も発生した。 けれど、空には何もない。 「……『外』ね。誰かが力ずくで無理矢理結界を破ろうとしているわ」 フローライトがいち早く何が起きているのか看破した。 「……グッジョブよ、ホークロード……!」 「何?」 「魔王石よ、導け!」 マリアの左手薬指の指輪が爆発的に赤い閃光を放つ。 閃光に目を奪われた一瞬の間に、マリアの姿が地上から消え去っていた。 ノワールには、もうマリアは指一本動かす力もないように見えていたのに……。 「いや、指一本動かしていないのか……指輪の力か……」 ノワールは大空に視線を向けた。 一際激しい爆音と共に、空を文字通り貫いて赤い光が降下してくる。 赤い光は、空に向かって飛翔していくもう一つの赤い光と激突すると、赤い閃光と化して空を埋め尽くした。 赤い閃光が晴れると、そこには……。 「キーキーキキッ!!!」 巨大な漆黒の『鷹』に鉤爪で両肩を掴まれて浮いているマリアの姿があった。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |